2人のプロフェッショナルが語り合う(1)
高橋忍(Microsoft)×轟啓介(Adobe)対談――進化するアプリ開発現場でデベロッパーとデザイナーの関係はどうあるべきか?
・2人のプロフェッショナルが語り合う(1)――導入編
・2人のプロフェッショナルが語り合う(2)――解決編
・2人のプロフェッショナルが語り合う(3)――理想編
スマホやタブレットの普及により、業務アプリ開発の環境も変わりつつあるが、それに対応できる体制は整っているだろうか。この対談では日本マイクロソフトの高橋忍氏、アドビシステムズの轟啓介氏が、デベロッパーとデザイナー、それぞれの視点から、今後のアプリ開発における問題と解決策、そして理想について語り合う。
多様化が進むアプリ開発現場に対応するため
日々変化するアプリ開発の現場。最近ではWeb技術の活用にとどまらず、RIA(Rich Internet Application)と呼ばれるリッチなユーザーインタフェース(UI)やユーザー体験(UX)を備えた業務アプリに加え、iOSやAndroidを搭載したスマートデバイスの急速な普及により、それらに向けたアプリ開発も求められるなど、多様化が進んでいる。
そのため、従来のアプリ開発スタイルにのっとるだけでなく、これら新しいユースケースに対応できる「魅力的」なアプリの開発や、それを実現する外部とのコラボレーション、特にデザイナーとの連携が重要になってくる。そして増え続ける作業量の削減や連携強化のため、ツールの活用も必須だ。
今回は日本マイクロソフトから高橋忍氏、アドビシステムズから轟啓介氏の2人のプロフェッショナルにお越しいただき、今エンタープライズ分野のアプリ開発で問題になっていることと、それをどのように解決していくのか、また理想的な開発環境とはどのようなものなのか、開発者に求められるスキルやノウハウについて話をうかがった。
日本マイクロソフト デベロッパーエクスペリエンス&エバンジェリズム統括本部 クライアントテクノロジー推進部 エバンジェリストの高橋忍氏(左)。アドビシステムズ マーケティング本部 クリエイティブソリューション第2部 ディベロッパーマーケティングスペシャリストの轟啓介氏(右)
導入編――まだまだ遠いデベロッパーとデザイナーの距離
スマホやタブレットの普及でUIに対する評価は変わっているが・・・
日本マイクロソフト デベロッパーエクスペリエンス&エバンジェリズム統括本部 クライアントテクノロジー推進部 エバンジェリストの高橋忍氏。
高橋 多くのアプリ開発では、デザインのコストがほとんど予算に入っていません。しかし、今のようにスマホやタブレットが普及してくると、UIがちゃんとしていないアプリは評価されなくなってきました。その意味でデザインの業界も変わってきたと思います。こうしたアプリが増えたおかげで、デザインの仕事は増えていますか?
轟 Webデザインにおいてはそんなに変化がないと思いますが、新しく出てきたスマホやタブレット対応のアプリ開発ではそうですね。小さい画面でいかに魅力的に見せ、しかも使いやすくできるか、そこにデザインの力が発揮されるので。水面下の話で言えば、昔Webデザインをやっていた人で、今アプリのデザインをやっている人は結構増えてきたと思います。
高橋 その一方で、特にエンタープライズ系の開発ではデザインの視点が遅れています。例えば、こういったエンタープライズのアプリ開発の現場ではデベロッパーが画面デザインも兼任して行うケースがまだ残っています。「Visual Studio」に多くのコントロールが用意されているので、それらを元に画面の設計を行って、そのまま配置していくだけになってしまうケースもまだあるんだと思います。残念ながらこうした現場では、スマホやタブレットが普及した今でも開発スタイルが変化した印象は少ないですね。
轟 こうした案件では、やはりデベロッパー主導で開発が進んでしまうので、そのマインドが変わらないとデザイナーが活躍できる環境が生まれにくいでしょう。
実際、現状で使いやすい業務アプリはあまりないと思います。例えば勤怠管理システムを見ても「プルダウンメニューが長すぎて面倒」とか、「いちいち画面をリフレッシュさせないと進めない」とか、少し触っただけで気付く問題があるのに、「業務アプリとはこういうもの」と割り切ってしまうところがある。絶対に(アプリを使う際の)作業コストも違うし、モチベーションも違ってくる。いろいろメリットはあるはずなんです。
高橋 これは僕の勝手な思い込みかもしれないですが、開発関係者の中には(例えば)星がきらきらと降ってきて音が鳴ったりとか「いわゆるソーシャルゲームのエフェクトのような効果=デザイン」と思い込んでいる人がまだいるんじゃないかなと(笑)。
アドビシステムズ マーケティング本部 クリエイティブソリューション第2部 ディベロッパーマーケティングスペシャリストの轟啓介氏。
轟 それはあるでしょうね。デザインと言っても、そこには情報デザインがあり、UXとUIのデザインがあり、グラフィックスデザインもある。しかし、そういう装飾系デザインのイメージが強いから、予算がかかるなら「いらないかも・・・」と思ってしまう。
でも実は開発の最初に必要なのは、前者の情報デザインやUX/UIデザインなので、そういう人たちがいないままスタートしたプロジェクトは、最終に近い段階に来てからデザイナーに助けを求めたりすることがあります。その時点では手遅れなんです。
高橋 その手遅れな作業フローが、いわゆるこれまでのエンタープライズのメインストリームの開発手法で、いまだにそれが脈々と受け継がれいてる現状があります。もう1つは、いざマインドが変わっていろいろやってみようと思っても、そういうデザインに携わる人と出会う機会がないという問題もありますね。
そうした現場では開発ができる人はいるけど、デザインができる人が身近にいないとか、リアルなつながりがなく、そもそもデザイン的な考えを持った人が入る場所が構造的にないという課題があると思います。
轟 なるほど、今後は僕らがそうしたデベロッパーとデザイナーが出会えるようなイベントを作っていきたいですね。
それでもデベロッパーがデザインをしなければならない現実
高橋 一方、現実問題としてデザインにコストをかけたくても、開発現場は大規模なものだけでなく、個人での対応や小規模な予算という場合もあり、そうなるとデベロッパーがいろいろとやらなくてはなりません。特にスマホやタブレットでは、全部やろうと思ったらデザイナーとしても最低限のことができないといけない。こうしたとき、好きな人はPhotoshopやIllustratorも使うわけですが、そこまで意識していない人もいます。
ボタンとか標準のUIは素材のパーツが存在するので、典型的なUIだけならばコントロールを配置するだけで作れるのですが、アイコンとかはそうもいかなかったりします。現在のWindowsではアイコンが6種類もあって、それを解像度の数だけ用意しないといけません。例えば、今Windows ストア用にアプリのアイコンを用意する場合、解像度に合わせて20数種類以上のアイコン画像が必要になります。
Windowsの世界になると、これをOS標準のペイントブラシで普通に解像度だけ変えてアイコンを作ったりしてしまう人もいるんです。アイコンの数を考えると、これは大変な手間ですし、仕上がりもよくありません。
アイコンを6種類解像度ごとに用意した例
轟 その点、Photoshopを少しでも使えれば問題ないですよね。デザインのバリエーションは簡単に作れますし、解像度の変更だけでいいなら、最初に設定しておくと全部自動で処理してくれます。解像度変更後の品質もいいです。
PhotoshopのGenerator機能を使うと、一度設定しておけば複数解像度に対応した画像が変更がある度に自動的に書き出されます。
高橋 世の中にはいいソリューションがありますが、実際にはそれを使わずに苦労している人が大勢います。開発している間は楽しかったりするけれど、最後のそういう作業が面倒臭いというのは結構多いので、こうした便利なツールの活用がポイントになると思います。